2022/08/25
屋上緑化と資産価値
屋上・壁面緑化
1.屋上緑化のメリット
屋上緑化を設置することによる建築物へのメリットは、
- 紫外線や酸性雨から防水層の劣化を防止
- 建物の膨張、収縮による劣化の軽減
- 火災延焼の防止
- 省エネ効果
などが挙げられます。
また、昨今の再開発による大型建築物の屋上やテラス空間の緑化、不動産デベロッパーのマンション販売時に掲載する広告など、緑は購買意欲を高める重要な選択肢の一つとなっています。都市緑地法の適用や緑地面積の確保だけでなく、『緑あふれる街並み』『緑豊かな暮らし』『健康』など、緑が与える集客力、購買力が重視され、不動産価値や家賃収入の収益にも大きく関わってきています。
2.屋上緑化と管理
一方、緑の維持管理は重要で、長期修繕計画に組み込む必要があります。施工後の緑量と経年後では管理方法によっても大きく変わります。都内のアークヒルズでは、緑被率が23.3%から42.1%に上昇したと報告されており、緑の維持管理は専門家によるアドバイスや見積りが必要です。(森ビル株式会社ホームページ:https://www.mori.co.jp/environment/urban_nature/coverage.html)
また、建築物保全の視点から、防水層の維持、排水ドレーンの清掃、設備点検補修などは必須のため、屋上緑化システムの選定は、防水層に影響のない事は勿論のこと、改修時に取り外しが容易なものやリサイクルが可能なものなど、運用コストの面からも持続可能な屋上緑化システムの選定が必要となるでしょう。特に植栽の選定は管理に大きく影響を与えることから、枯葉の落ちにくい植栽、地下支柱などの倒木に対する検討など、経年による植物の成長を見据えた計画が必要です。
更に昨今のカーボンニュートラルなどから屋上緑化をすることによる環境評価は、管理の面からも設計のレイヤーに組み込める屋上緑化システムの選定が重要となってくるでしょう。
3.屋上緑化と耐用年数
屋上緑化と資産価値を考える上で、屋上緑化の耐用年数も考慮しなければなりません。屋上緑化は『緑化施設』に位置付けられ、建物と別の減価償却資産となります。
『緑化施設』とは、植栽された樹木、芝生等が一体となって緑化の用に供されている場合の樹木、芝生等をいい、散水用配管、排水溝等の土工施設も含まれます。屋上緑化では、屋上緑化システムや耐根シート、2次側以降の潅水設備もそれに含まれます。耐用年数は『減価償却資産の耐用年数等に関する省令』により
- 工場緑化施設...7年
- その他の緑化施設...20年
と定められていますが、この期間は税法上の耐用年数であり、工場以外の緑化施設が全て20年持つとは言い切れず、実際には屋上緑化メーカーと協議し管理計画や改修計画を立案する事が大切です。
併せて屋上緑化の固定資産税については、都市緑地保全法の改正等により国や自治体で軽減措置があるので相談すると良いでしょう。
4.屋上緑化と資産価値
以上のように屋上緑化の設置のメリットを考慮しながら保全、管理計画を実施していきますが、このようなライフサイクルコストの検討と共に、屋上緑化に対する投資はROIなどの利益分析が必要となります。
ROI(Return On Investment)とは、投資した費用に対し、どのくらいの利益が出たのかを測るための指標で、企業の利益を高めるために重要な指標となります。ビルの共用部や屋上緑化、テラス部に計画的、戦略的に緑を設置することにより利用者が『快適』と感じ長く滞在、建物内を回遊する事でより高い収益を得ることができます。
大阪のなんばパークスでは、緑地の存在(緑地面積5300m2)により、利用客1人あたり1223円の購買額が増加したと言われています(*1)。この数字をもとに日経アーキテクチュアは、「年間で92億円にのぼる売り上げを稼ぎ出している」(2010年10月11日号)と試算しています。
このように集客効果として環境評価の視点ではCASBEEやアメリカのLEEDなどは環境への取り組みが格付けされ、緑の導入により社会的評価が高まります。また、企業緑地としては、昨今のSDGsやESG投資の潮流により、高品質な緑地を形成し社会に発信、企業のイメージを向上させる効果を期待しています。
(*1 建築研究所・加藤真司上級研究員2009年調査。現:東京都立大学教授)